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山の恵み 第4回【郷土のお米探訪】

山の恵み 第4回【郷土のお米探訪】

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 今回は、『郷土のお米探訪』と題しまして、宮崎県北五ヶ瀬川流域圏のお米をご紹介します。
 豊穣の季節となりました。田んぼで揺れていた黄金色の稲穂も順々に刈り取られ、田に設えられた竿にかけられていく労働風景が、郷土の各地でみられます。
 農家の高齢化が進んでいますが、この時期には、農業をしていない息子や娘、遠方で暮らす親戚も稲刈り作業に集まるところが多いようで、村は収穫の喜びと合わせて、いつもより賑やかになります。
 県北山間部の田は、幅が狭く、小さな田がいくつも折り重なるように棚田を形成していますので、大型の機械が使えるところが少なく、個々の労働力が頼りです。稲刈り作業の手伝いがいると、ずいぶん仕事が楽になります。

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 刈り取られた稲は、脱穀され、共同のもみすり場で乾燥、籾すり作業をしたのち、玄米で地元の農業組合(JA)に出荷するのが、一般的です。自家消費米は、別に精米します。また、長期保存する場合は籾で保存する場合が多いようです。

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【五ヶ瀬町・菊池靖隆さん(72歳)のイセヒカリ】

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 菊池靖隆さんは、イセヒカリという珍しいお米を作っています。
 イセヒカリは、三重県の伊勢神宮の御神田から誕生しました。平成元年、伊勢地方は二度の台風災害にあいました。御神田の稲が風雨により倒伏する中、中央に二株だけ、直立する稲があったそうです。調べた結果、新種の米であるということが分かりました。厳しい条件下でも生き抜いたのは、突然変異を起こして、強くなっていたからでした。
 「俺と同じで背丈は短いけど、病害虫にも強い丈夫な米よ!」と、菊池さんは評します。歯ごたえがしっかりした、美味しいお米だそうです。

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 「今年は株間を3cm縮めたお陰で、よう育った」。 山水を利用し、牛を養い、農業を追求してきた菊池さん。若い時分は、農業研究のため、熊本県八代市まで自転車で通ったそうです。その情熱は、年を重ねても消えません。今年は、口蹄疫の問題で精神的にがっくりしたそうですが、負けてなるものかと自分を奮い立たせてきました。
 田の横を登る軽トラックの挨拶代わりのクラクションに、「おぉ〜!」と、大きな声で返事をし、稲刈り作業に励みます。
 はざ掛けするのは、稲に残された可能性をしっかりと稲穂に伝えるため。独自の宇宙観を持って、しっかりと米作りに向き合っていました。

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【高千穂町・尾谷のおたに米

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 天孫降臨の地・高千穂町からは、尾谷集落の『おたに米』です。品種はヒノヒカリです。尾谷集落は、天岩戸伝説で有名な天岩戸神社までの道すがらあります。山を背に日本棚田100選にも選ばれた栃又棚田が連なり、日本の原風景を思わせる風光明媚なところです。
 その棚田は、農夫が朝に夕に一鍬、一鍬、作り上げたものです。陽を浴びて働く農夫の姿を見て、そう考えては驚きと感謝の念を抱きます。

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 今村康薦さん(44歳)。「昔から、この地域の米は美味しいとよ。日当りも良いし、水も良い。水は、岩戸の山から数十kmと用水路を流れる間に温もるから、それが良い。食べてみない、違いが分かるはずじゃき」。   
 堆肥は、集落の共同作業でつくる完熟堆肥「棚田で元気」を使用。特別栽培米の認定も受けています。
 興梠哲男さん(54歳)「このままの米の価格じゃ、農家は潰れる。少しでも価格をあげて、作物を作る意欲を持たにゃいかん。今頑張らんと、未来はない。」
 今年は、ニコマルという新しい品種にも挑戦しました。集落みんなの力を合わせて、希望を掲げています。

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【日之影町・恋和神の御花米】

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 四月になれば桜が咲き、五月になれば色とりどりのお花が棚田に咲き誇ります。村から街から、多くの人が深角駅に集まり、一日中歌って踊って山の幸を食べて、お花畑のコンサートを楽しみます。
 主催者は、深角駅長こと山本英治さん(61歳)。深角駅は、今はなき高千穂鉄道高千穂線にある木造の小さな駅。列車は走ってないけれども、この深角駅周辺をみんなが集まる癒しの場所にしようと、山本さんは公園化づくりに励んでいます。

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 五月のお花畑をみんなが楽しんだ後、お花はそのまま田にすき込まれ緑肥となります。そして、秋には黄金色が鮮やかな稲穂が揺れます。
 恋和神は山本さんちの屋号。だから、『恋和神の御花米』。「うちのは、理由は分からんけど、消毒せんでも病気にならんわ。でも、今年は猪にずいぶんやられた。まあ、あれも山の主じゃから、しょうがないわ」
 そう笑う山本さん。来年はもっと性根をいれて、米作りに励むそうです。

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【延岡市北方町・上鹿川のひめしゃら米】

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 『ひめしゃら米』が育つ、延岡市北方町上鹿川集落のロケーションは抜群です!周囲を1200メートル級の山々が囲み、巨岩、秘石の存在感は絶大です。地球の歴史と鼓動を感じるような上鹿川の風景を一度見ると、二度と忘れることはできません。何度も訪れたくなる不思議な場所です。

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 鹿川を流れる水は清らかで、ぽっかりと広がる青空からは、ドカッと太陽が降り注ぎます。その太陽を浴びて伸びやかに稲穂が薫ります。
  「五月下旬に田植えをして、十月の下旬に収穫します。日照時間の長さ、朝晩の温度差が大きいのも美味しい米の理由でしょう。」生産者の西高光義さん(50歳)、控えめですが、とても誇らしげです。
 花崗岩から湧き出る川の水を引き、山の養分を蓄えた土地。牛の敷寝に刈干しを撒いて熟成させた堆肥を使うのも美味しさの秘密です。
 西高さんは、その完熟堆肥を使い、夏秋トマトも栽培しています。甘くて美味しいと評判です。
 風土に根ざし、その恵みを最大限に活かした米作り、作物づくりです。
 風土がとりなす縁もあります。おにぎりを持って、村を歩いてみると、車からでは見られない村の営みが心にしみます。

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【日之影町・阿下集落の水車】

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 水車小屋に入ると、心地の良い籾の香りに包まれます。ドーン、ドーンと、二本の杵が、石臼をそれぞれついています。外では、川の水の音。水車がコトコトと回り、上手い具合に、杵と連動しています。

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 水車の持ち主は、河野一郎さん(68歳)。昔はどこにでもあった水車、精米の文化を後世に伝えたいと、四年前に地元の大工さんとつくりました。
 「籾からいれて14〜15時間程度で、精米が終わります。途中に、一回とうみで、籾殻を飛ばします。熱があがらんから、米の栄養価を損なうことなく、美味しいお米になりますよ」。
 この集落では、今年度にもう三基水車を設え、田に菜の花、石垣にシバザクラ、山に紅葉を植える予定だそうです。
 『水車のもみじの里づくり』。村人総出で、癒しの里を築いています。

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【郷土のお米とこれから】

 喜六の郷土は、宮崎県北にあります。今回は、五ヶ瀬川流域圏の5つの地域をレポートしましたが、こだわりと愛情を持って、米作りに励んでいる農家の方々が郷土にはたくさんいます。
 その仕事は、米作りに限らず、畑を守り、山を守り、村の景観を守り、ひいては国土を守る仕事です。農家があり、食ベものがあってこそ、私たちは人間としての生産活動を行えます。
 ところが、日本の農村地帯では、過疎化、少子高齢化が進み、それに比例し、農家数、農業就業人口も激減しています。宮崎県北地域も例外ではなく、むしろその先進地域だと言えるでしょう。

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 私たちが、見ている棚田も、そのほとんどがおじいさん、おばあさんの手によって、維持されています。担い手不足もあり、今後のことについては、皆、不安に思っています。
 
 そんな中で、米価暴落というショッキングなニュースが流れています。その原因は、政府の備蓄米のだぶつきによる買い控え。戸別所得補償モデル事業により米の生産による収益が期待されることから、その分を値引きした価格での取引、流通が行われていること。そして、猛暑による一等米の減少。二等米、三等米の増加。デフレなどが理由としてあげられています。

 こちらの農業者に話を聴いたところでは、「出荷した時点で赤字になるのではないか」、ということでした。さらに、戸別所得補償モデル事業では、米農家といえどもその土地が借地だと、地権者との合意の上でその受給者が決められため、補償対象にならないなど曖昧な点が多く、農業を廃業せざるをえない農家が増えるということでした。

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 メディアでは、食料へ対する危機感として、食料自給率が示されますが、大切なのは【食料自給力】です。日本の人口に対する農業従事者は、ほんの2%足らずで、その45%以上が70歳以上の高齢者だと言われています。県内、特に県北山間部では、その割合がさらに高いでしょう。

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 喜六では、郷土の農家に感謝し、その景観が守られるよう今後、農山漁村の下支えになるような事業にも取り組んでいきたいと考えています。


【レポート 藤木哲朗】
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